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手塚貴晴・由比さんインタビュー 大事なのは、子どもたちを管理しないこと 過保護にしないこと

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「遊びの中にある学びとは?」をさまざまな方にインタビュー

手塚貴晴・由比さんインタビュー
大事なのは、子どもたちを管理しないこと
過保護にしないこと

2016.2.2
手塚建築研究所
手塚 貴晴・由比(てづか たかはる・ゆい)


入園希望者が絶えない幼稚園としてあまりにも有名な東京立川市にある「ふじようちえん」。屋根の上は子どもがグルグル走り回り、大きな窓は一年中開けっぱなし。子どもが子どもらしくいられることをモットーに、このユニークな園舎を設計したのが建築家の手塚貴晴さんと由比さん。「自分たちの子育てと同時進行だったので、すごくリアルでした」と話すご夫婦の子育ては、「守りすぎないで、なんでもやらせてみること」。自然との触れ合いを大切にしながら、子どものチャレンジ精神を見守り続けたお二人の言葉は、子どもの持つポテンシャルの大きさに気付かせてくれます。

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PHOTO:手塚建築研究所

子どもを育てる建物

子どもってグルグルまわるの好きですよね

手塚 貴晴(以下、貴晴):子ども向けの建物ということでは、「ふじようちえん」が最初でした。私たちには当時0才と3才の子どもがいて、子育て真っ最中。自分たちが当事者になると、そういう仕事が来ることって多いんです。

手塚 由比(以下、由比):ちょうど上の娘が幼稚園に入る年代だったので、ふじようちえんはすごくリアルな仕事でした。

貴晴:最初のスケッチは幼稚園のある立川から帰る電車の中だったかな。子どもって、同じ所をグルグルまわるの好きですよね。ふじようちえんの円形は、子どものそういう習性から発想しました。自分が子育て中ですからね、子どもを見てるといろんなことがわかってくるんです。

屋根の上は非日常的な空間

由比:ふじようちえんを作る前に、個人宅で「屋根の家」という住宅を作ったんですけど、ふじようちえんのブランドデザインを担当された方も園長先生も気にいってくださってて、最初からなんとなく屋根の上で園児たちが遊べるといいなって考えがありました。「屋根の家」は、家主さんがもともとは普通の家に住んでらしたんですが、「ウチは屋根の上でご飯食べるんですよ」っておっしゃったのが発想のキッカケでした。

貴晴:屋根の上というのは、屋上とは違うんです。屋上には用途があるけど、屋根の上は非日常的な空間。だから、個人宅の「屋根の家」では開閉自由な複数の天窓を作って、ハシゴを掛ければ、自由に屋根の上にあがれるようにしました。テーブルと椅子を置いて、シャワーまでつけて(笑)。その時のコンセプトをふじようちえんにも活かしたんです。

由比:ふじようちえんはドーナツ型になってますけど、屋根の上にデッキが貼ってあって、天窓があって、ハシゴで上り下りができるというところは「屋根の家」のまんま。でも、ふじようちえんは屋根の園児たちの様子が下から見えるように、屋根をできるだけ低くしました。

落ちてくる子どもを網で受けとめる

貴晴:「屋根の家」には屋根の端っこに手すりが無いんですが、園長先生が「幼稚園の屋根の上も手すりなんかやめましょう」って。「それはムリです」ってお答えしたのですが、「じゃ、端っこに網を突き出して、落ちてくる子どもを受け止めることはできない?」ってアイデアを出してくるんです(笑)。

手塚 貴晴さん、手塚 由比さん(手塚建築研究所にて)

由比:当然ですが、国の役人は「手すりは設置してもらわないといけない」って言いますね。で、園長先生の網のアイデアは、屋根を突き抜けて立つ3本の大きな木のまわりに残しました。網で落ちてくる子どもたち受け止めるんです。といっても、落ちてくるというより、子どもたちは自分からドンドン落ちるんです。一人、二人と、みんな網に落ちたがる(笑)。

貴晴:そう、子どもたちはドンドン落ちていく。その姿は、建物が子どもをどう育てるかという明確なビジョンを表していると思います。一般的な教育の建物は子どもを守り過ぎて、それでは子どもをダメにしてしまう。教育機関の行政は、少数の大きな声を聞く傾向があって、結果的に過保護なくらい安全な建物を建ててしまう。じつは大多数の小さな声の人たち(親御さん)は、子どもにとって本当にいいものは何かをわかっているんです。

守り過ぎると、経験しないまま大人になってしまう

由比:ふじようちえんの園長先生は方針がはっきりしてらして、入園式で「うちは手や足の骨とか折るかもしれませんが、首の骨は折らないようにしますから」という話をなさるんです(笑)。ケガも子どもの育ちの一部ということなんですけど、子どもはやっぱり自分でトライして、ケガもして、どこまでが大丈夫なのかを覚えていくものなんですね。守り過ぎてしまうと、経験しないまま大人になってしまう。それって、とてもマズイことです。

貴晴:そう、子どもは野山を駆け回ってるほうがいいよねって、みんなわかっている。でも、そういう場所がどんどん減っているでしょ。木登りとか、とても大切。うちはどんどんやらせてたから、娘の小さい頃なんて、もう本職かと思うくらいスルスル登ってた(笑)。教えたわけじゃなく、自分で勝手に登るんですよ。

由比:園長先生が話してらしたんですが、親が「やりなさい」って言うと、危ないんだそうです。自分で登る子は、どこまでの高さが安全かを本能でわかっているから、降りてくるのも大丈夫。強制させられるとロクなことがない。子どもって、やっぱり自分のことをいちばんわかってるんです。

大人は大きな危険を回避してあげればいい
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PHOTO:手塚建築研究所

貴晴:ふじようちえんの設計については、けっこう自分の子どもで試しましたね。子どもって狭い所が大好きなんです。だから、ふじようちえんには狭くて天井が低くて入り組んださまざまな仕掛けも作ったんです。で、試しにウチの子どもにヘルメットかぶらせて、ぶつけそうなとこだけバンパーつけて遊ばせて。ウチの子どもは丈夫なんで、少しくらいケガしたって、どうってことない。

由比:子どもは、ちょっとした所から飛び降りるのも好きでしょ。手すりで守るなんて考え方はふじようちえんにはないから、ウチの子たちで実験しました。結果としては、1.1メートルくらいなら、どんな子でも飛び降りられることがわかりました。1.2メートルを超えると、かなり運動能力が高い子でないと危なくなりますね。

貴晴:子どもの時に適度にいろんなトライをして強くしてあげないと、大人になってからは守ってあげられないですからね。もちろん、無茶をさせて大ケガさせてはイケないから、大人は大きな危険を回避してあげる。で、子どもは泥だらけになったり、擦りむいたりしながら大きくなっていく。これって、ものすごく大切なことだと思います。木登りも含めて、少し高い所なんかを利用して、自分で満足しながら遊び方を創り出してるんです。

由比:ふじようちえんは、子どもがグルグル走り回っても、狭い所に隠れても、好きにさせておくんです。でも、結局は戻ってきてしまう。なにしろ円形ですから(笑)。

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