「遊びの中にある学びとは?」をさまざまな方にインタビュー
手塚貴晴・由比さんインタビュー
子どもとの時間は10年しか続かない
それが人生でいちばん美しい時
2016.2.2
手塚建築研究所
手塚 貴晴・由比(てづか たかはる・ゆい)
入園希望者が絶えない幼稚園としてあまりにも有名な東京立川市にある「ふじようちえん」。屋根の上は子どもがグルグル走り回り、大きな窓は一年中開けっぱなし。子どもが子どもらしくいられることをモットーに、このユニークな園舎を設計したのが建築家の手塚貴晴さんと由比さん。「自分たちの子育てと同時進行だったので、すごくリアルでした」と話すご夫婦の子育ては、「守りすぎないで、なんでもやらせてみること」。自然との触れ合いを大切にしながら、子どものチャレンジ精神を見守り続けたお二人の言葉は、子どもの持つポテンシャルの大きさに気付かせてくれます。
遊びから学ぶ「生きる力」
小さいころって怖がらない
貴晴:息子が通ってる学校は、やたら強い子が多い。そういう子が集まっている学校なんですけど。
由比:スポーツが得意って子が多いんです。でも木登りはウチの子がいちばんって言ってました(笑)。誰も登れないって。
貴晴:息子の友達は探検船に乗ってマンタを追いかけたりしてるようだけど、そうそうモルジブなんて行けない。ウチは屋久島あたりをウロウロしてる(笑)。海ガメいるし。近くなら、式根島や新島もいい。安い宿に泊まって、ずっとシーカヤックとかやって。
由比:子どもたちは小さいころから水に慣れてるから、ぜんぜん怖がらない。
貴晴:まだ2才の息子を僕の背中に乗せて、2メートル位は潜水してましたから。小さいときって怖がらないんですよ。息継ぎだって、適当にやってますよ(笑)。例えが悪いかもしれないけど、犬だって教えなくても泳いじゃうでしょ。ああいう感じ。
由比:まっ、おぼれる前に拾い上げれば大丈夫(笑)。息子は小学校に入ったころには、2、3メートル位は潜ってました。シーカヤックもぜんぜん怖がらずに、もう沖合5、6キロまでは行っちゃいます。
子どもって丈夫。そんなに簡単には壊れない
貴晴:子どもって、そんなもんだと思う。そういうことやらせない親もいるようだけど、子どもの可能性を信じてあげなくちゃ。そうそう、意外だったのが、小学校受験の体験がとてもよかった。スポーツ重視の学校だから、受験のために一緒にいろんな運動をした。サーキットトレーニング(休みを入れずに、異なる種目の運動を次々に行うトレーニング)も必死でやりましたよ。
由比:学校自体がまず運動能力をあげろ、頭は後でいいみたいなところなんです。もともと私たちは山や海が好きなんで、自分がやりたいから子どもを付き合わせてるみたいなところがありましたね。
貴晴:子どもってね、けっこう丈夫。何があっても、そんなに簡単には壊れない。幼児期に身体を動かして脳を発達させて五感を育てるっていうのは、将来の勉強に役立つっていわれてる。
由比:役立つといいんですけど。脳みそが筋肉みたいになってそう(笑)。でも、自然は最高の教師だと思う。
貴晴:こないだ檜原村(ひのはらむら:東京都西多摩郡)で、川で鮎を捕まえて焼いて食べてましたよ。それなりの流れもあるし、深みもある。「子どもが飛び込んで大丈夫?」ってところなんですが、ズボッと沈んで鮎をとってきた。
由比:もちろん、親はまわりで見てますよ。浮かんでこなかったら、救い出さなきゃ。地震の前はよく中禅寺湖(栃木県日光市)にもキャンプに行ってました。あそこは泳いじゃいけないんですけど。
貴晴:子どもに魚を見せてあげたくて、網持って泳いで怒られましたよ(笑)。食べるつもりじゃないですよ。本物を見せたくてね。カエルとか触れないって子も多いようだけど、ウチの子は気持ち悪いって感じてないようで、いっぱい捕まえてた。なんでも捕まえちゃうんですよ(笑)。
遊んでいると、どんどん強くなる
由比:子どもって親が放っておくと、いろんなことしてておもしろいですよね。息子は慎重なタイプ。で、娘の方はしつこいタイプ(笑)。
貴晴:気が付いたら、娘が穴を掘ってるんですよ。ヤドカリみたいにドンドン掘っていく、素手で。放っておくと、ホントにおもしろい。そうそう、毎年、屋久島にウミガメのボランティアに行くんですよ。
由比:屋久島は、ウミガメが産卵に来るんです。産卵する浜のすぐ横に民宿があって、よく行くんです。娘が、ウミガメの孵化(ふか)の時期に卵の数を数えたりして。
貴晴:こっちも真夜中にずっとつきあって、卵集めたり、子ガメを育てたり。そういうことって、普通のことだと思ってるから、一生懸命やらせてる。そうしないと、人間おかしくなっちゃう。とても大切なことだから。
由比:やっぱり屋久島はいいですね。自然がたくさんあるから、山登らせたり、川や海で泳いだり、遊ぶところがいっぱい。で、遊んでいると子どもがどんどん強くなっていく。
貴晴:ちなみに、奥さんはもともとたいして泳げなかった。私は水泳部だったから泳げたけど、海や山によく行くようになったのは、子どもが生まれてから。
由比:今もそんなには泳げないですが、やっと息子と潜れるようになった。息子のほうが先にうまくなったんで、息子から「こうやるんだよ」って教わりながら素潜りができるようになった。
親に与えられた最高の10年
貴晴:私は遊具はよくないと感じている。たぶん親が一緒に遊べないからだと思う。親も子どもと同じ目線で
遊べるって、すごい大事なこと。川も海も山も、親がいっしょに遊べるでしょ。でも親が何も知らないと、離岸流に流されたりするんです。親がそういうのを勉強してないといけないです。僕は息子に離岸流からの逃げ方を一緒に泳ぎながら教えたけど、息子はちゃんと覚えてますよ。料理も、これから少しずつやらせようと思ってる。包丁で手を切ったら危ないとか言わずに、ちょっとくらい切ったっていいと思う。そうするといろんなことを覚える。中学生の間には、なんでもできるようになっててほしいですよ。
由比:なかなか思ったようにはなってないですけど、遊びの体験はとっても重要。そういう考え方って、やはりふじようちえんを設計しながら学んでいったところはあります。ウチの子がその年代でしたから、こういうことから子どもって学んでいくんだなって、こちらにもたくさんの発見がありましたし、勉強になりました。
貴晴:たぶん、(幼稚園のようなものを)建築家が作品として作ろうとするとややこしくなる。きっとうまくいかないと思う。やっぱり親の視点から見ないと。建築っていうのは彫刻じゃなくて、「そこで起きるでき事」だから。でき事を作るって考えていくと、いい幼稚園ができるのかなと思う。
由比:自宅に4メートルのテーブルと4メートルのキッチンがあるんですが、ウチの子どもたちって、いつもその周りをグルグルまわって遊んでたんですよ。三輪車にのっても、グルグルと。そういうのを見てると、やっぱり子どもはまわるの好きって発見できる。そういう発見とふじようちえんが同時に進行していきました。
貴晴:子どもにとって、遊びは仕事ですね。人生ですね。だから真剣なんですよ。遊びと生活の区別なんてついてない。子どもはいろんな遊びをしながら、自分がそこから生きていくのに必要なものを身につけていく。生存本能ですね。だから、「遊び」は子どもにとって楽しく思えるようにできてるんです。それをしないと、人間て生きていけないはず。その機会を奪ってしまうと弱い子どもになってしまう。私たちに子どもができたとき、ドイツ人の友達から言われた言葉があって、とても大切にしている。「子どもたちとの時間は10年しか続かないんだ。それが人生で最も素晴らしい時だから、それを失っちゃいけないよ」って。
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