「遊びの中にある学びとは?」をさまざまな方にインタビュー
内田 幸一さんインタビュー
今日が楽しければ、明日も楽しい
子どもの人生の先回りをするより、今を大切に
2016.8.30
『森のようちえん』全国ネットワーク 運営委員長
内田 幸一(うちだ こういち)
1950年代、デンマークの一人のお母さんが森の中で保育を行ったのがルーツとされる『森のようちえん』。自然の環境の中で、できる限り子どもたちが自ら遊んで学ぶことを尊重する姿勢は、世界的な活動として広がり、日本でもここ数年で200か所以上の『森のようちえん』が誕生しています。「子どもに何かをさせるのではなく、自分からやることを大切にしたい」と語る内田幸一さんの言葉から、時代が求める新しい幼児教育の形が見えてきます。
家族で学ぶ
家族ってなんだろう、子育てってなんだろう
『森のようちえん』に入った子どもを通して、家族全体に変化が起きていくことがよくあります。みんなが『森のようちえん』に影響を受けるというか……(笑)。
「子育てはママに任せる」って言って、今までまったく子育てに関心の無かったパパが、やっぱり子どもの事が気になるようになったりします。家族参加のイベントもけっこうやりますから、お父さんに活躍してもらったり、お母さんにお手伝いしてもらったりする機会が増えてきます。
そういう場では、親子の中での関係性も出てきますので、お父さんもお母さんも自分だけがそっぽを向いてるわけに行かなくなるんです(笑)。周りのパパやママたちが一生懸命やってたりすると、「あのお父さん、スゴイ!」みたいになって、消極的だった自分も変化していく。
「自分も家族の一員なんだ」と実感して、家族をもう一回見直す機会になるようです。で、だんだん「家族っていったいなんなんだろう」とか「子育てってなんなんだろう」とか、自分が外側で傍観していていい問題ではないということに気がつくんでしょうね。
育ちの様子が見えるようになる
自然の中で家族で過ごしていると、親の方も子どもの頃を思い出すのか、童心に帰るのか、自然を相手に一緒に夢中になって遊べるんですよ。
そうすると子どもの方は、他の大人もまわりにいるのに、パパやママが自分に共感してくれて嬉しいわけです。子どもにとって、自分が興味持ったものに対して、同じ興味を示してくれるいちばん嬉しい相手は、お父さんやお母さんなんです。
で、だんだん「もっとこっち行ってみようぜ」「あっち行ってみようぜ」ってなってくると、子ども自身の人生が楽しくなりますね。親側も、自分の子どもに対する見え方も変わってくる。「子どもって、こんなにいろんな事にアンテナ張ってるんだな」「いろんな感覚をちゃんと捉えているんだな」って見え始める。それは、“育ち”の様子が見えるようになるっていうことです。
家族の距離が縮まる
幼稚園に行かせれば、おもちゃを与えれば、勉強をさせれば、勝手に育つんだと思っていた親が、一緒になって実際に経験することで、子どもの心も豊かになってくるし、自分の想いをどんどん表現するようになる。
着実に家族の距離が縮まります。そうやって育ちの様子が見えるようになれば、たとえ子どもが家に帰って今日の様子を話さなかったとしても、今日一日、野外に出てどんな風に遊んできたかって想像できるようになります。
お土産に拾ってきたドングリを見て、それから、泥んこになった洗濯物を見て、「きっとおもしろがって、いろいろやってきたのね」って、わかるようになります。
子どもの興味をそそるよう働きかける
子どもを『森のようちえん』に通わせてるということで、親たちの中には「自分もいろいろ自然に詳しくならなくては」と思う方がいるのですが、別に知識はあんまり必要ない。子どもがいろんな物に対して、興味を持てればいいんですよ。
親側の働きかけとしては、例えばアリがいたら「アリンコいるね」だけじゃなく、「このアリさん、どこ行くのかな?」「何してるんだろうね?」とか、木の実が落ちていたら「どこから落ちてきたんだろうね?」とか、子どもの興味をそそるように、ほんの少し働きかけるわけです。
もし子どもの方が先に興味をもったら、あとは共感すればいいだけです。「きれいだねー」「大きいね」みたいに、共感をしてコミュニケーションをとればいい。知識や興味を広げるのに、親が教えてどうこうする必要はないです。
“特別なもの”は子ども一人一人違う
重要なのは、子どもが“それが見える”ようになるということ。つまり、一面が枯れ葉に覆われてる場所では、子どもの目には、最初はただの茶色っぽい平板に見えてるんです。そこから松ぼっくりを一つ拾い出してあげた時、初めて子どもの視界に松ぼっくりが現れてくるんです。
普通は自然の物なんて、ほとんど見てるようで見えてない。枝や枯れ葉や木の実が混ざってることは何となくはわかっているんですが、一つ一つは別に注視しているわけではない。だから、一面が平板な茶色なんです。
でも、そこに“特別なもの”があるはずなんですね。“特別”というのは、あくまでも興味の対象者が決めるものです。子どもによって、一人一人違うんです。その“特別なもの”を見つける手助けとして、周りの大人たちが松ぼっくり拾って見せたり、「ここに松ぼっくりがいっぱいあるね」と言ってみたり、松ぼっくりに気付かせるんです。
親も自然に対して目が向くようになる
視界にはなんとなく入ってるけど、見過ごしてる物に気付き始めれば、興味が出てくる。そうすれば、枯れ葉の形の違い、葉っぱの裏側、小さな虫なんかを見ることができるようになる。で、「わーわー、キャーキャー」って楽しくなってくる。
ですから、親側があらかじめ知識を用意して「これはね、○○っていうもので……」なんて、ほとんど要らない。見えるようにしてあげればいいだけ。ほんの少しのきっかけ作りだけで十分なんです。
もっとも、親の方も平板にしか見えてない場合がけっこうあって、『森のようちえん』をきっかけに、「この道って、こんなにたくさんの物があったんですね」って、自然に対して目が向くようになることが多いです。
親子関係が変わる
家の中でも、そういう機会はたくさんあります。お料理なら、卵を割ってみてもいいし、野菜を洗ってみても、白菜をバラしてもらってもいい。子どもたちはいろんなことに気がつく可能性があります。
子どもの“気づき”だとか子どもが興味を持つという働きかけさえ上手にできれば、日常生活の中でだってできます。家庭によっては、それを「面倒くさい」「それより勉強してほしい」「散らかるからイヤ」と思うかもしれないですけど、少し気持ちに余裕を持って、親子関係の中にうまく取り込んもらいたいですね。
そういうことができれば、親子関係も変わってきますし、日常生活のありとあらゆることに興味をもつようになる。
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